頂き物v

gift




煌びやかに飾り付けられた室内には、皓々とした灯りが満ちていた。
真っ白なテーブルクロスには染み一つ無く。
その上に並べられた数々の贅を尽くした食事の数々が素晴らしいのは、決してその見た目だけでも、味だけでもなく、全てが一流品であるからだ。味覚、嗅覚、触覚、視覚…その全てに置いて計算しつくされたその食事を一口でも口に含めば、きっと幸せになれるであろうそんな場所で。


その眉間に皺を寄せて口を動かす人間が目の前にいたら、いくら何でも楽しく食事などできるはずはないだろう?


「どうした? 美味しくないかね?」

 しばらくの逡巡の末。
 ロイは、向かい合って座るその前で、今にも恐怖の大王が襲ってくるんじゃ無かろうかというくらいせっぱ詰まったような険しい表情で、手と口を動かすリザにそう尋ねた。
 すると彼女、その手をぴたり、と止めて顔を上げると、目の前に座る男の顔をじっと見てから、たっぷりと間を取った後、こう口にした。

「…いいえ、とっても美味しいですよ。こんな素晴らしい食事、今まで口にした事などないというくらいです」

 …彼女、演技力は大根らしい。眉間の皺こそ緩んだいたものの、じっと睨め付けるその瞳はちっとも潤んでいない(というか、むしろ冷め切っている)し、口元はどちらかというと下向きに弧を描いていた。声だって、いつもよりずっと低くて抑揚すらない。
 ちっとも美味しくなさそうな顔でそんな事言われた所で、信じられる事などできるはずもないではないか。
 ちょっと呆れながら。同時にちょっとその冷たい空気に怯えながら。
 しかし一見優雅に食事を楽しみながら、男は考える。



(一体何が気に入らなかったんだい? 今日はせっかく久しぶりに二人で食事が出来るからと、誘ったときにはどちらかというと嬉しそうだったじゃないか。…何か気に障る事でもしたかな? でも今日は仕事もサボらず真面目にやったし、彼女の前では女の子と喋っても居ないし…)


 しかしいくら思考を巡らせたところで、男には答えを見つけ出すことなどできなかったから。
 何となく、胸の奥にしこりを残したままで、美味しいのか美味しくないのか分からないまま、食事は進む。



 

「…この後は、どうしようか?」
 さあ、後はデザートだけ! 机がその準備のために真っ新に片づけられた時。ロイは漸く口を開くことが出来た。
 気まずかったわけではない。この数十分の間に、ずっと無言で手と口を動かすリザの姿を眺めながら…特に何かに腹を立てているわけではないらしいと検討をつけてもいた。

 でも肝心の理由が分からない。…強いて言えば、何か気がかりなことでもあるかのような…そわそわとその視線を彷徨わせる様子から、きっと自分に集中していないのだろうな、とほんの少し、胸の奥でちくりと何かが動いただけだ。


 だから、こう尋ねたのだ。当初ロイの予定では、この後近くの夜景の綺麗なホテルの屋上でワインを飲んだ後、同じホテルでこっそり取ってあった部屋でお楽しみ…vのつもりであったのだが。
 彼女がこんな様子では、そうもいかない。いくらロイとて、彼女に無理強いをさせるつもりはなかったから。
 多分『このまま帰ります』という返答が帰ってくるであろう事を半ば予測しながら、尋ねたのだ。


 …言ってほしくない。正直そんな言葉など聞きたくはないと思っていたのも本心であるのだが。だって仕方ないじゃないか、君にだってそれなりに都合があるのだろうし。いくら私だってそこまで薄情な人間ではないつもりだよ。いくらプレーボーイと呼ばれる私でも振られた事がないわけじゃないんだ。世の中には色々な嗜好の人間がいるものだからね。ああ、うん。あれはそれなりにショックだったけれど、別にそこまで本気ではなかったし、構わなかったんだ。
 でもさすがに本命に振られたことは数えるほどしかない、あの時はかなりショックだった。うん、その女性にはいつも振り回されていてね。目下連敗記録更新中。その気のない女性にはいくらでももてるし、同じく振られたところで何の感慨もわかないんだが。だけど、本命だけには通じない魅力など、いくらあったところで意味がないじゃないか。今日も今日とて記録更新。寒い今夜は温かいその身体を抱くはずだったベットで、一人寂しく枕を抱えて眠ろうか…



 そうして肩を落とし、身構えたロイの目の前で。
 リザは…


 やおらがたりと音を立てて立ち上がると、ずいっとその手をロイの間の前に突き出した。思わず条件反射で身を仰け反らせた彼の目の前にあったのは。


 硝煙の漂う彼女の白い手。
 …の上に載せられた、何か。


「…何?」

 それはきらりと光を受け、鈍い輝きを放っていた。
 四角い箱。光っていたのは、それを包む包装紙が、光沢紙だったからであろう。その上から、紙より幾分か濃い色のブルーのリボンで綺麗にラッピングされている。


「ぷ、…プレゼント、です」
「は?」
「だから!  プレゼントです!」


 呆然と、真っ白になった脳で見上げたその顔は、普段より幾分か赤く染まっていて。いつもであれば冷静に、真っ直ぐにこちらを見つめるその視線は、照れているせいか、せわしなくロイの周囲を行き来していた。それでも顔は反らすまいと必死に男がその箱を受け取るのを待っている様は。

 何というか、
 その、


 …かわいい。




「君…もしかして、それを渡すのが照れくさくて、心此処にあらずだったのかい?」

 ああ、なるほど、だったら頷ける。怒っている訳でも気分を害しているわけでもないのに、目の前に座る男から意識を反らせずに、でも食事に集中していなかったその理由が。


  「わ、笑わないでください! …ていうか、何でもいいから、早くこれ受け取ってください」


 半ば泣きそうになりながらも、律儀にその手を目の前から動かさずにいるのがいかにも彼女らしくて。それが尚一層ロイの笑みを深くする行為として映っているということに、聡明な彼女が何故気付かないのか。
 これはロイにとっていつも突き当たる疑問の一つだ。


「たいさ!」
「…ああ、済まないね。ありがとう」

 これ以上じらすと、銃でも突き出されそうな雰囲気だったので、ロイは笑いを堪えながらもそれを受け取った。
 ただし、それが載った掌毎。


「…?!」
「今夜の予定は決まったな」


 箱ごと掴んだ掌に恭しくも口づけを落としたら、目の前の彼女の頬が面白いくらいに赤く染まるのが見えた。
 …本当はその身体毎腕の中に閉じこめてしまいたかったのだけれど。それは後でのお楽しみ。


「とりあえず…デザートを食べようか」

 タイミング良く叩かれたドアを眺めながら、慌てて席に腰掛けるリザを目の端で捉える。
 にやにやと笑みを浮かべるロイを睨み付けるその視線も、照れ隠しと思えばむしろ微笑ましい。君が一体どんな顔をしてこれを選んでくれたのか、渡すのに散々悩んだのかい?食事をしている間も、ずっとどうやって渡そうか悩んでいたのか? 思考を巡らせれば、巡らせる程、浮かんでくるのはそんな彼女への愛しさばかりで。


「うん、コレを食べたらホテルに直行だ!」
「…たいさ!」 

思わずそう宣言したロイの目の前でデザートを並べるその手が一瞬止まったのと、リザが悲鳴のような声を上げたのは、ほぼ同時だった。







だって、今すぐにでも抱きたくなったんだ。君があまりにも愛しくて…







2005.12.24 に頂きましたv


妄想ドミノ様にて配布なさっていたステキ小説です…v
おこがましくもいただいてきちゃいましたvv
ああんvなんでこんな可愛い中尉がかけるのだろうか…!
Seria様、本当にすてきですvv(ファンですv)
これからも日参させていただきます…v



※プラウザーを閉じてお戻り下さい。